「童謡・唱歌の世界」のMIDIの曲をBGMに使用させて戴きました。


 2009年の6月25日から7月3日までイギリスへ行って来ました。43年ぶりのロンドンをスタート地点として、イギリスの南東部や南西部の古い町や、中東部のコツウォルズ地方、北部の湖水地方などイギリスの田舎と言われる丘陵地帯の村々をバスで回り、最後はロンドン市内を観光して帰国する9日間のツアー(阪急トラピックス、添乗員:荻野昭博さん)を利用しました(下の地図を参照)。そしてイギリスの世界遺産の宮殿や教会、そしてバラなどがちょうど花盛りの庭園も何か所か訪問しました。


 帰国後に私が水彩ペン画で描いたこの旅行中の風景をまとめて掲載しましたのでご覧下さい。


ロンドンおよびイングランド南部

 今回の最初の訪問地はイギリス南部にある中世の色彩が色濃く残っているカンタベリーの街でした。ここで世界遺産のカンタベリー大聖堂を見学した後、ドーバー海峡に面して白い崖が見えるドーバーの海岸を経て、中世から伝わる木組みの古い家が建ち並ぶライの街へ行きました。その翌日はロンドンから西部へ向かい、ローマ時代の浴場の遺跡のある世界遺産の街バースへ行き、市内やローマン・バスの内部を観光しました。
 湖水地方からロンドンへ戻る途中、ウッドストックにある世界遺産ブレナム宮殿の庭園を見学しました。ツアーの最後はロンドン市内の観光で、大英博物館および二つの庭園を回って下車観光をし、最終日はフリー行動の日で、私たちはウエストミンスター寺院などロンドン市内を自由に歩き回って観光をしました。


カンタベリー大聖堂(Canterbury Cathedral)

 ロンドンから南東90kmほどの所に2000年の歴史をもつカンタベリーの街があります。中世の面影が色濃く残っている街で、カンターベリー大聖堂などの世界遺産があります。大聖堂は荘厳なゴシック建築の広大な建造物で、イギリス国教会の総本山となっており、11世紀に建造が始まり15世紀末に完成しました。王室と教会との権力争いによってトーマス・ベケット大司教が聖堂内で暗殺され、その墓所を訪ねる巡礼者も多く、チョーサーの『カンタベリー物語』は巡礼者の話の本として有名です。


ウィーヴァース・ハウス(The Weavers House)

 カンタベリーの街の中を流れるストウ川沿いに建つ木組み造り(half-timbered)の建物で、16世紀頃に織物や染め物の工場として使われていた古い建物です。現在はレストランや土産物店になっています。


ライ(Rye)の街

 ドーバー海峡に面した小さな港町で、中世から伝わる木組みの家や石畳の坂道、900年の歴史を持つ聖メアリー教会や展望の良いイブラ・タワー(城址)など、趣のある風景が見られます。


ライの聖メアリー教会

 ライの街の丘の上に位置している、1150年に創建された古い石壁の教会が聖メアリー教会(Parish Church of St. Mary)です。周囲には中世の面影を残す建物が軒を並べて建っており、小さな街ですが時間を忘れて石畳の道を歩き回りました。


ハンプトンコートの庭園(Hampton Court Gardens)

 1514年に当時の枢機卿ウォルジーが建てた宮殿ですが、離婚問題でローマ・カトリック教会から脱退してイギリス国教会を創立した国王ヘンリー8世が、余りの豪華さに没収して自分の居城にしたと言ういわれをもつ宮殿です。美しいバラ園、迷路庭園、プライヴィ・ガーデンなど、大きな庭園が宮殿の敷地内に点在しています。この絵は赤煉瓦に白の縁取りのチューダー様式とバロック様式の重厚な建物を背景にした南側のバラ庭園です。


クイーン・メアリーズ庭園(Queen Mary's Garden)

 ロンドンの市内のリージェンツ・パークにあるバラ園(クイーン・メアリーズ・ガーデン)に行き、美しいバラの花を見に行きました。リージェンツ・パークは東京ドームの40倍もある敷地に、色とりどりの草花が咲く市民の憩いの場所です。この絵はバラ園の入口の鉄柵と黄色い花が咲くバラ園を描いたものです。


ウエストミンスター大聖堂(Westminster Abbey)

 ロンドンの市街の中心部にある世界遺産の壮大なゴシック建築の大聖堂で、16世紀にローマ・カトリック教会から独立した英国国教会の大本山とも言える存在です。1,000年以上も英国王室の戴冠式の場として使用され、内部は歴代の王や女王・王妃の墓所となっており、また著名な作家、詩人、音楽家等の墓碑が並んでいます。日本語のオーディオ・ガイド付きで、広大な内部を見学することが出来ます。


テムズ川南岸から見たタワー・ブリッジ(Tower Bridge)

 ロンドン市内のテムズ川に架かる橋の中で最も美しく、また有名な跳ね橋がタワー・ブリッジです。1894年に建造され、橋の両端にゴシック様式の塔があって内部は展示場になっています。私たちは地下鉄のロンドン・ブリッジ駅からテムズ川の南岸をロンドン塔まで歩きましたが、途中タワー・ブリッジの交通を遮断して、橋が跳ね上がって船が通る光景が見られました。


ロンドン塔側から見たタワー・ブリッジ

 タワーブリッジでテムズ川を渡りロンドン塔まで歩いて移動しましたが、河畔から見上げた1894年に建造されたゴシック様式の吊り橋の塔は素晴らしく、また迫力があります。
 


ロイアル・ビクトリア・ドック橋(Royal Victoria Dock Bridge)

 ツアーの最後に宿泊したロンドン東部にあるノボテル・ロンドン・エクセルは広大なドックに面しており、ExCel展示会センターが近くにあります。ロンドン・オリンピックの会場が近くに出来ると言うことで近隣地区では盛んに工事が行われていました。ドックの対岸へは、エレベータで上りヨット型の橋を渡って行くことが出来ます。近くに飛行場があり、航空機が頻繁に着陸姿勢で通過してゆきました。


コッツウォルズ地方

 イギリスの中東部、ロンドンの北西約200kmの丘陵地帯に広がるコッツウォルズ地方は中世の面影を残すイギリスの田舎の地方で、蜂蜜色のコッツウォルズ・ストーンで造られた家並みが丘陵の所々に集落を形成しています。今回は14世紀からの保存状態が良い家並みが残っているカッスル・クーム(Castle Combe)の村と、ウイリアム・モリスによって「イギリスで一番美しい村」と呼ばれたコルン川に面した風情あるバイブリー(Bibury)の村を訪ねました。この二つの村を訪ねた後、コッツウォルズの北の入口に当たるストラトフォード・アポン・エイボンの街を訪問しました。ここはエイボン川のほとりにある街で、劇作家シェイクスピアにゆかりのある中世期の雰囲気を残したチューダー朝様式の木組みの建物や銅像などが街中で見られます。


バースにあるローマ浴場跡(Roman Baths)

 ロンドンの南西部にあるバースは風呂(bath)の由来ともなった街で、西暦75年にローマ人が構築したローマ浴場跡(Roman Baths)が街の中にあり、世界遺産として登録されています。この絵は浴場の建物の中で最も大きなグレート・バスを上から眺めたもので、現在でも110万リットルもの温泉が湧き出しています。建物の内部には発掘された沢山のローマ時代の遺物が展示されていました。


カッスル・クーム(Castle Combe)

 バースの北東へ50分くらいの所にあり、古い家並みの保存状態が良く、「絵画のように美しい村」と言われており、コッツウォルズを代表する小さな村です。この村はメインストリートが100メートル位しかなく、道の両側には14世紀頃から引き継がれてきた「はちみつ色」の煉瓦造りの家が建ち並び、村の中央広場には、17世紀頃にウールの集散地として大いに賑わった「マーケット・クロス」と呼ばれる屋根付きの市場の跡が残されています。


セント・アンドリュース教会(St.Andrews Church)

 マーケット・クロス広場の一角に、古い煉瓦造りのセント・アンドリュース教会があり、今も変わらずカッスル・クームの村を見守っています。


バイブリー(Bibury)

 デザイナーとして有名なウィリアム・モリスが「英国で一番美しい村」と賞賛したと言われる村の風景です。川の水が澄んでいて、泳ぎ回る鱒や藻の生えている水底まで綺麗に見えるコルン川に沿って、いろいろな草花が咲き乱れる庭のある住宅が立ち並んでいます。この絵は藻の生えるコルン川岸から老舗のスワン・ホテルを眺めた、バイブリーの代表的な田園風景の構図です。


バイブリーのスワンホテル

 上の絵に見える橋の上から、スワンが泳ぐ藻が浮かぶコルン川と、外壁が蔦に覆われたスワン・ホテルを眺めた風景です。「第50回 八雲展」および「第5回 多摩アートテラス展」に出品したF10号の大きさで描いた絵です。


アーリントン・ロウ(Arlington Row)

 コルン川を渡ると、バイブリー村にあるアーリントン・ロウの趣のある古い家並みがあります。ここは14世紀に羊小屋として建てられ、17世紀に羊毛業が栄えた際に住宅と作業場を兼ねて改装されたものと言われており、現在はナショナル・トラストが管理しています。


ロウアー・スローター(Lower Slaughter)

 私たちは素通りした村ですが、バイブリーの北にひっそりとたたずむロウアー・スローター村があります。村を流れるアイ川には村のシンボルになっている古い水車小屋があり、現在も回り続けています。知人の要望で描いた絵です。


アン・ハサウエイのコテージ

 イギリス・コッツウォルズ地方のストラトフォード・アポン・エイヴォンに保存されている茅葺き屋根の民家です。このような昔風の茅葺き屋根はサッチ(thatch)と呼ばれ、イギリスの田舎の各地で見られます。このコテージは文豪シェイクスピアの妻アン・ハサウエイが1582年に結婚するまで住んでいた実家ですが、シェイクスピアの生家をはじめ文豪ゆかりの建物がこの家の周辺の街の中に散在して保存されています。それらの建物の周辺には、色とりどりの草花や樹木、ハーブなどが植えられた典型的な田舎の庭園が付属しており、内部を見学することができます。


シェークスピアの生家

 1564年にウィリアム・シェークスピアが生まれた家がエイヴォンの街の中心部近くにあり、その家の中庭から眺めた絵です。木組みに石灰塗り壁のチューダー様式造りの家で、シェークスピアの少年時代の家具や調度品がそのまま残されており、当時の生活の様子を偲ぶことができます。このほか街の中には、シェークスピアゆかりの場所が多くあるようです。


『嵐が丘』の風景と湖水地方

 湖水地方へ向かう途中、イングランドの丘陵地帯をバスで走っていると、どこまで行っても同じような緑や黄色の小麦畑や牛や羊のいる広大な牧草地、ヒースの生える荒野といった風景が続き、天候もどんどん変化してゆきます。そのような風景を眺めながら、『嵐が丘』の作者エミリー・ブロンテ姉妹が暮らしたハワースへ立ち寄りました。翌日さらに北へ進み、イングランド北部の大小の無数の湖が点在している国立公園地帯の湖水地方を訪問しました。湖水地方は美しい景観が連なるリゾート地で、美しい風景が昔のままの姿で保存されています。詩人のワーズワースや動物絵本の作者ビアトリクス・ポター、画家・詩人・思想家など多彩な顔を持つ芸術家ジョン・ラスキンなどの多くの作家がこの地方に魅了されてきました。今回のツアーでは、ウインダーミア湖の周辺の観光地を巡り、観光船や蒸気機関車に乗り、この地方の景観を見てきました。


ハワース(Haworth)の街

 イングランドのヨークシャー地方にある小さな村で、エミリー・ブロンテの書いた『嵐が丘』の舞台となった所です。坂道のメイン・ストリートには、パブやレストラン、お土産店などが19世紀の風情そのままに立ち並んでおり、ブロンテ一家の住んでいた家もあります。


ハワースの聖ミカエル教会

 エミリー・ブロンテの父パトリックが牧師をつとめていた村の教会で、静かな山の中腹にひっそりと建っていて、ブロンテ一家の人たちもこの教会墓地で眠っているそうです。隣接する牧師館は、ブロンテ一家が1820年から40年間、住居としていた所で、現在は「ブロンテ博物館」となっていて、内部のそれぞれの部屋には当時のままの家具や装飾が残されており、当時の生活の様子が見られます。


ウィンダーミア湖(アンブルサイド)(Lake Windermere)

 湖水地方にある一番大きな湖がウィンダミア湖で、低い山並みと湖、樹木と牧草の緑が豊かな自然の風景を提供しています。私たちはその中心地ボウネス(Bowness)から南のレイクサイド(Lakeside)まで船でクルージングを楽しみ、さらに蒸気機関車が牽く観光列車に乗り継いでハーヴァースウェイト駅まで渓谷沿いに走りました。この後、バスでウィンダミア湖の北岸のアンブルサイド(Ambleside)へ向かいました。


ライダル・マウント(Rydal Mount)

 ライダル・マウントは詩人ワーズワースが晩年を過ごした家で、現在も当時のままの状態で保存され公開されています。彼が設計したという広い庭園には、シャクナゲやサツキなどの樹木が植えられており、花の季節には見応えのある素晴らしい風景が見られるようですが、私たちが行った時はすでに花の盛りを過ぎていました。


グラスミア(Grasmere)

 ライダル・マウントの少し先にあるグラスミア(Grasmere)の村はワーズワースが住み、精力的に執筆活動を行ったダヴ・コテージがあります。また、村にある聖オズワルズ教会の墓地には、彼とその家族が眠っています。この絵は教会のほとりを流れるロザイ川の美しく澄んだ水面を描いたものです。


イギリスのお土産品

 英国の陶芸品の里、ストーク・オン・トレントへ行き、ボンチャイナの名品を制作しているウェッジウッド・ビジターセンターを訪ねて陶芸品や制作過程を見学しました。この絵は、花模様の絵皿の上に乗っているピーター・ラビットの縫いぐるみ人形を描いたものです。


イギリスの自然保護活動


 今年の初夏にイングランド北部を観光旅行した際に、「ナショナル・トラスト」というボランティア団体が、貴族や地主が所有する歴史的建造物や自然景観地等を積極的に買い上げて、無理な開発による環境破壊からそれらを保護している活動状況を見てきました。
 児童作家のビアトリクス・ポターが書いた絵本『ピーターラビット』シリーズ(日本語版:石井桃子訳、福音館書店刊)は世界中の子どもたちに読まれていますが、その発行部数は累計1億5千万部を超えているそうです。ポターはその印税で湖水地方の土地や建物を次々と購入し、彼女の死後、遺言によってその所有地がすべてナショナル・トラストに寄贈されました。現在湖水地方の主要な地域はナショナル・トラストの管理下にあり、そのため昔のままの姿で湖水地方の風景を見ることができます。このように美しい自然風景や貴重な文化財・歴史的景観を保全し、後世に伝承してゆくことを目的に、イギリスの多くの地域、建物、庭園などがナショナル・トラストの所有物となって管理されているのです(“National Trust”で検索して見て下さい)。
 ウィンダミア湖畔のボウネスの街には『ビアトリクス・ポターの世界』の展示館があり、絵本シリーズのキャラクターによるジオラマの世界を見ることが出来ます。また、湖畔の周辺にある絵本の舞台となった場所は、ナショナル・トラストによって当時のままに保存され、一般に公開されています。
 参考書:伝農浩子著「ピーターラビットと歩くイギリス湖水地方」(JTBパブリッシング発行)


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